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| 質感と陰翳が、上質の空間をつくるとき |
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キース・ジャレットが流れていた。木製のブラインドから日差しが、斜めに長く淡い光の帯を作っている。その家のリビングに通されたときは、夕暮れどきだった。その家の主ご夫妻は、この夕暮れどきがいちばん好きな時間だという。なるほど、とすぐに思った。
その家のリビングは、ちょっと変わっている。いわゆる一般的な応接間やリビングダイニングのように四角く区切られた空間ではなく、ちょっと見にはダイニングと個室を結ぶ細長い通路のように見える。その長辺の壁に沿って置かれているソファは、二人掛けなのだがゆったリとしていて、なんともいい座りごこちである。
やがて、暮れなずむにつれて部屋の明かりの中で、空間が新たな停まいを見せはじめた。部屋が夜の表情に変わった。昼から夜へのうつろい。なるほど、ご夫妻が言われるように、夕暮れどきの気持ちいい家である。その趣には、風情がある。
私たちが忘れかけていた、陰翳のある住宅なのである。
見上げると、あらわしの梁から切妻の天井に向かって、ほの暗い闇が広がっていた。左を見ると、ダイニングがアンバーな光の中に浮かび上がっていた。右を見ると、オーディオルームの半開きのドアからこぼれた光が、階段のシルエットを際立たせていた。幾重にもなった光と影のタペストリーが、部屋に奥行感を与えている。
改めて見まわすと、いわゆる装飾らしきものはほとんどない。白熱灯と間接光がつくるあたたかな光が、影にぬくもりを与えている。それが、この家の装飾だった。
それは、弱い光の中で見る漆塗りの金蒔絵が持つ陰翳にも似ていた。
あ、この家は、住み手も作り手も、空間を熟知している、光を愉しむ術を知っていると思った。この家には、質感がある。素材も機能もギユツと凝縮されたときの、内側から放たれる光彩のようなものを感じる。
フワツとしたぬくもりと、凛とした気品。そこには、センスを共有する、住まい手と作り手のコラボレーションが確実に存在していた。
だからこそ、この家には気持ちのいい空気が流れていた、のである。
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| H13.6.Agora(JAL会員誌)にて掲載
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